道場で相手に伝わる挨拶(あいさつ)をするコツ!

武術・技術

私が武道に憧れた理由の一つは、礼が大切にされていることです。先生に対して、対戦相手に対して、道場に対して、神に対して、など、武人の行う礼は見ているだけで心が洗われるような清々しい気持ちになります。

礼がこの上なく格好いいので、日本では茶道や能楽なども経験し、礼の型を学びました。ですが、私は小さい頃から人見知りをしてしまうクセがあり、実際に人間を相手にして行う挨拶というのが、長年上手くできないままでした。

海外に来てからは、恥ずかしながら、挨拶が上手くできなくても、外国人であるために多めに見てもらえるのに甘んじて、西洋的な挨拶も深くは身につけずに過ごしてきました。

海外で武道を始めてから、稽古を通じて仲良くなった兄弟弟子の方々と、道場で会ったときに毎度挨拶が上手くできないのがもどかしくなって、どうしてなのか真剣に考えてみました。(武道を学んでいながら挨拶さえ上手くできないなんて!)

そして、私がしてきたありとあらゆる挨拶の失敗を思い出すうちに、どうして上手く行かなかったのかが分かってきました。

本記事では、効果的な挨拶とはどういうものなのかということと、私が海外の道場での経験から導き出した、相手に伝わる挨拶をするためのコツをご紹介したいと思います!

挨拶(あいさつ)の目的

さて、挨拶は何のためにするのでしょうか?

挨拶の目的は、「相手の存在を認め、それを伝えること」だと、私は思います。

相手の存在を認めることで人は相手と深いところで繋がることができるからです。相手の存在とは、相手の生命とか魂と言い換えることもできると思います。

私たちは日常、他の人の肉体や感情ばかりを意識に認めてしまいがちですが、挨拶は、相手の「存在」を認めてそれ伝えることによって相手と深いレベルで繋がるために行います。

道場においては、相手を要しない型の稽古をするのであっても、同じ空間を共有する人との関係は、無意識のレベルで稽古に影響します。視界に知らない人が入っているところでは、稽古に集中しづらいでしょう。道場での挨拶は、稽古の質を決定づける大切な要素です。

効果的な挨拶(あいさつ)とは?

効果的な挨拶とは、相手の存在を認め、行動を通してそれが伝わるものです。

では逆に、 効果的でない挨拶とはどんな挨拶でしょうか?それは、

  • 相手の存在を認めないまま行う形だけの挨拶
  • 行動が不十分で伝わらない挨拶

です。形だけの挨拶、行動が不十分な挨拶、どちらの場合も相手と自分の潜在意識に「相手の存在を認めていない」という情報を伝えます。

私は割合、道場で英語をスラスラと話すことができましたが、 挨拶が 形だけになったりしてうまく伝わらなかった時には、その後どれほど沢山会話をしてもしっくり来ず、空虚くうきょな感じを消すことができませんでした。

相手の存在を認める方法

それでは、道場で効果的な挨拶をするために、相手の存在を認めるにはどうしたら良いでしょうか。

相手の存在を認めるための具体的な方法は、

  • 相手の存在に意識を100%(しっかりと)向けることです

私たちが生まれ育ってきた社会では、肉体に比べて意識という目に見えないものの現実への影響力についてあまり認識されてきませんでした。

中国の武術や日本の武道にも影響を与えた道教の哲学では、意識または精神を「神」、肉体をつくる物質を「精」と呼び、「神」も「精」も同じ物質の状態が変化したものであると考えられています。氷と蒸気がどちらも水の状態が変化したものであるのと同じです。そうだとすれば、肉体には質量と他の物に作用する力があるので、意識もまた同じであるということが言えます。

私たちのもつ意識にも質量とエネルギーがあるという認識ができれば、肉体を使って挨拶を行う時に意識の向け方に気をつけることの効用を理解できると思います。

意識を100%向けるコツ

相手の存在に意識を100%(しっかりと)向けるコツには下の4つがあります。

1.周りにいる他の人やその意識、物事に意識が分散させない

道場では他の人が近くを通り掛かったり、別の方角から自分の方に意識を向けている人がいたり、色々なことが同時に起こっています。私の意識は、話している相手に50%、道場に入って来た人に20%、時間に30%…などと分散しがちで、 道場では目がいつも泳いでいました。

ある人に挨拶をするときは、その他の物事に意識を分散させないようにし、また、意識を他に移さなければならない状況では、挨拶をするのを我慢がまんして別の機会を待つことも大切です。

2.他の別のことをやっていたらその手を止める。歩いていたら、立ち止まる

もし何かをしている途中に、新しく人がやってきて挨拶をされたら、していることを完全に中断して挨拶を返します。ジャケットを着たり、カバンにものを入れたりという単純なことでも(私はいつも常にこれをやっていました)、意識の一部を占めるのでやめます。

ほんの小さなことなのですが、やってみると自分の意識に大きな違いが感じられます。 意識がしっかり向けられていることを相手が感じていることもわかるので、その瞬間のその場、空間の価値が一気に上る(貴重きちょうになる)ような心地がします。

3.相手に対する自分の感情(好き嫌いや不安など)に意識を分散させない

人に会った時に、相手が怖そうだなとか、ステキだなと思ったり、緊張したり、上手く話せるか不安になったりするのは自然なことです。ですが、そちらに意識を分散させないで、あくまで相手の存在に向けるようにします。

4.何を思っているかなど、相手の部分的なところにも意識を向けない 。

自分の意識と同様に、相手の感情や肉体といったところにも意識を分散させないようにします。どう思われているかな?機嫌悪そうだな。身長高っ!みたいなことを考えているときは意識が分散しているので、まともな挨拶ができません。

以上が、相手の存在に100%意識を向けるコツです。 相手の存在に100%意識を向けないと、「完全に認めていない」「存在に気づいていてなおかつ存在を認めていない」という情報が相手の潜在意識に伝わり、相手が不安になるのだと思います。

またそれは同時に、自分の潜在意識にも「存在を認めたくない相手がいる」という情報を伝えてしまい、自分自信も不安にすると思われますので、上の4つのコツを使って意識が半端になる要素をなるべくなくすことをオススメします。

意識の対象と分量

私はこの、100%の意識を相手の存在に向けることが敬意なのだと思っています。つまり、自分が意識する対象と分量が、相手の意識が感じる敬、不敬の違いになってくるのですね。

私は小さい頃から人見知りをしがちで、知らない人と出会うのが苦手でした。今考えると、知らない人に対する自分の恐怖や不安、または相手の持っている感情などの部分に意識が分散して、相手の存在から意識が逸れてしまう習慣がついていたのだと思います。

日本では会釈をしたり頭を下げたりするだけで、大体は失礼になることを回避することができたのですが、海外に来てから、西洋式の「目をしっかり見て」「しっかり笑顔をつくって」というボディランゲージが大袈裟おおげさに感じられて上手く身につけることができず、形式的な挨拶すらできなかったので、コミュニケーション上とても苦労をしました。

私がボディランゲージを上手く身につけることができなかったのは、相手の目を見て笑顔を作っても、 意識の向け方が半端だったので挨拶の効果がなく、ボディランゲージをすること自体に価値を感じられなかったからだと思います。

挨拶では、相手の存在を認めることが大切になってきますので、

  • 道場で挨拶をしようと思ったらまず、意識を全て相手の存在に向けるようにしてみましょう!
稽古に必要な道具が揃ったら、いざ道場へ!

相手の存在を認めていることを伝える行動

さて、挨拶の前に相手の存在を認めることができたら、それを相手に伝えます。

相手の存在を認めていることを伝えるには 、 相手の存在に100%意識を向けたまま、挨拶の3つの行動(1.身体動作、2.言葉を発する、3.触れる)をしていくのがコツです。こうして意識と行動が同時に行われると、形式的にならず、相手に伝わる効果的な挨拶になります。

挨拶(あいさつ)の行動1:身体動作

挨拶に伴う動作には以下のようなものがあります。

身体動作1:自分の姿を完全にあらわす

以前、日本学んでいた武道の先生から聞いたことなのですが、人は皮膚でも呼吸をするため、肌を通してお互いの情報をやりとりすることができるのだそうです。 そのためか、お互いの身体全体が見えない状態では、意識を100%完全に相手に向けることができません。 

試しに開いたドア越しにいる場合など、身体が一部、物陰に隠れた状態で相手に意識を向けてみてください。お互いに身体全体が見える時に比べて意識を相手に完全に向けるのが難しくなると思います。

恥ずかしかったり、怖かったりすると、人は自分の心を読み取られまいとして無意識に身体の一部を隠してしまうようです。

私も今だに、道場でグランドマスターが偶然出てこられた時などは、恐れ多さと恥ずかしさでまともに挨拶することもできず、大人気なくも無意識に人の後ろに半分隠れている自分に気づくことがあります。

ですので、挨拶をするときは、勇気を出して、全身を相手にあらわすようにしてみてください。その気持ちは、自信と誠実さとして相手に伝わっていくはずです。

身体動作2:身体を相手の前面に向ける

姿を表すのと合わせて行いたいのが、相手の前面に自分の身体の全面全体を向けることです。身体が相手に向いていないと意識を相手に完全に向けることができなくなり、潜在意識にも相手の存在を認めていない信号が出されます。

身体動作3:微笑む(オプション)

微笑みは、人の心を柔らかくします。挨拶するときの自然な微笑みはお互いの緊張をほぐしてくれますが、 意識が向かないまま無理に作った笑顔は不自然で逆効果になるので、 まずは意識をしっかりと向けて、それができた上で可能であれば微笑みを加えてみましょう 。

身体動作4:礼

道場では、挨拶の際に礼をすることもあると思います。

礼法などでは礼(おじぎ)をするときの呼吸や姿勢について言われますが、呼吸や姿勢に意識が向いた礼は、礼として相手に伝わりません。意識が相手に完全に向いていなければ、既にそれが無礼と言われる状態なのですから…。

動作が伴っても相手への意識が途切れたりブレたりしないことが、何よりも重要だと私は思います。

挨拶(あいさつ)の行動2:言葉を発する

道場で、先生の話を聞いている時など、自分も相手も第三者に集中しなければならない状況でなければ、 挨拶の言葉を相手に発します。 逆に集中すべきものがお互いに他にない状況で言葉をかけないと、意図的に無視した形になってしまいますので、まだ挨拶をしていない人には、挨拶の言葉をかるようにけましょう。

まず、全意識を相手の存在に向けて、お互いの姿が完全に見える状態で、相手に身体を向けることができたら、挨拶の言葉をかけます。

挨拶の言葉:呼びかけ相手の名前相手の気分を聞く

例:Hi, Steve. How are you doing today? やあ、スティーブ。今日の調子はどう?

  • 相手の名前について

英語文化では、相手の名前を呼ぶことが親しみを表すとして好まれるようです。 ですが、相手の名前を挨拶の言葉に自然に含めることができるのは理想的ではあっても、必ずしも呼ばなくてはいけないというわけではありません。

名前を思い出そうとしたりすることによって相手への意識が分散してしまうのであれば、逆効果になってしまうので無理して言わないほうが良いというのが私の意見です。

  • 距離とタイミングについて

もし、挨拶の言葉を発しても、意識の向け方が不十分だった場合には、正しい距離とタイミングがとれない(遠すぎる、近すぎる) ということが起こります。

私の通う道場は、入り口から奥までが見渡せるようになっていて、奥に近い休憩エリアにいると、予期せず、入り口から入ってくる人と正面から向き合うことなります。お互いの姿を正面から認め合わざるをえない状態になるのですが、距離があるので相手が自分を見ているのかどうかわかりません。挨拶あいさつがしにくい空間の構成だと思います。

相手がこちらに向かって歩いてくる数十秒の間、 私はいつ挨拶をすべきか、すべきでないか、いつも迷っていました。そうするうちに、声をかけるタイミングが遅すぎて相手が通り過ぎてしまい、相手を見ていながら無視したような形になったり、 逆に声をかけるのが早すぎて、挨拶に気づかない、聞えないなどで、相手に反応してもらえない、ということが起こりました。

振り返ると、その時、相手の姿を見て反射的に挨拶をしなくてはと思ってしまい、「姿」や「しなくては」に意識を取られてしまっていました。

100%意識を相手の存在に向けたまま声をかけると、自然と距離とタイミングが取れるようになりますので、距離やタイミングが取りづらいと思われる場合は、意識の使い方に気をつけてみてください。

挨拶(あいさつ)の行動3:触れる

相手に触れることも、挨拶の行動の一つです。

英語圏では、初対面であれば握手が好ましく、道場で話したことのある相手であれば、肩に触れたり、親しい仲であればハグしたりして好意を表すことができます。

触覚というのはかなりパワフルなので、触れる方が意識をしなくても、触れられる方は、触れられたことをしっかりと感じ取りますが、他の挨拶の行動と同じく、意識の向け方をしっかりすると、より相手に深く伝わる挨拶になります。

初対面で話しかけづらい雰囲気の人には自分から近づき、自分の名前レベル等を言いつつ握手を求めると、とても好印象を持ってもらえるのでおすすめです。

  • Hi, my name is Kiyoshi. Nice to meet you. I’m a beginner in this school.
  • やあ、僕の名前はキヨシです。はじめまして。この教室では初心者です。

英語ネイティブでも消極的な人はいますので、挨拶をする距離感になったら、相手を待つことなく常に自分から動いていくスタンスに決めてしまうと迷いがなくなります。

挨拶(あいさつ)の行動4:少し雑談をする

リスニングが不得意だった私は、道場で挨拶の言葉を交わした後、話を繋げる自信がないのであまり親しくない人(ゆっくり話してくれない人)とは、そこで会話を終わらせて去ってしまうことがほとんどでした。

ですが、状況が許す場合には、相手に意識を向けたまま、挨拶の後に少しだけでも雑談すると、挨拶のミッションが完了した感覚がします。なぜなら、雑談中も自分の意識が相手に注がれることで、深い繫がりが確信になるからです。

雑談も挨拶の大切な一部だと思って、勇気を出して挨拶の後に、ほんの少しだけでも話を続けてみましょう。(どんな話が良いかはまた別の記事でご紹介しますね。)意識と身体をしっかり相手の存在に向け続けながら話せば、自然と心の通う会話ができるはずです。

まとめ

挨拶の目的は、相手の存在を認めていることを伝えることです。効果的な挨拶とは、それ相手に伝わる挨拶。道場で効果的に挨拶をするには、意識の使い方、身体の使い方、挨拶の言葉、接触、挨拶の後の会話が大切になります。

  • 意識を相手の存在に100%向け続けながら
  • 自分の姿を全て相手に表して、全身を相手に向け
  • 挨拶の言葉をかけ
  • 親しさに応じた触れ方をし
  • 少しだけでも会話を続ける
  • 微笑んだりお辞儀をしたりするときは、意識が分散しないように気をつける

ことが挨拶を相手に伝えて心を通わせるためのコツです。意識と行動の両方が一緒にできてはじめて相手に伝わり、無意識レベルの深いところで繋がることができます。

こうして挨拶のために自分の意識や行動を選択していくことは、相手に対する礼であるだけでなく、実は自分自身に対する礼でもあります。同時に複数のことに意識を向け、意識と行動をバラバラにすることは、自分自身を切り刻んでいるようなもの。そのような状況にならないように、丁寧に意識と行動が一体になるという選択を敢えてしていくことは、自分自身の存在に敬意を示すことにもなるのです。

ちょっと面白い話なのですが、実はここで説明したほとんどのコツが武道の実践にも当てはまります。相手に対する意識の使い方、身体動作、接触について、など…。武道が礼を重んじるのは、礼で行う心身の使い方が武道そのものに応用ができるからなのではないかとも思います。

挨拶の本質はどの国や文化でも同じだと思いますが、英語環境の道場で挨拶をするときには特に、心に起こる緊張感や失敗への恐怖などに意識をとらわれず、相手の存在に真っ直ぐに意識を向けて挨拶を実践してみてください。

きっと、言葉の壁を超えた深い繫がりを実感でき、道場で人も自分をも好きになっていくはずです!

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