武術と武道、どちらも色々なところで耳にしますが、どっちが何なのか、混乱してしまいますよね。さらに武術にはたくさんの種類のものがあって、違いがわかりにくいと思います。
でも、武術と武道の違いや、それぞれの種類・特徴は、実は簡単に理解できちゃうんです!
この記事では、武術と武道の最大の違い、そして武術の種類4つとその特徴について、例をあげながらやさしく解説しています。
武術と武道の明らかな違いと、種類・特徴がわかるので、はっきりと理解ができます。さらに、この記事を最後まで読むことで武術がご自身に向いているかどうか知ることができますよ。
それでは、まずは武術と武道について解説していきましょう!
武術・武道とは?
まずはじめに、武術とは、人間に対する戦闘での殺傷・制圧・護身技術のことです。
身の危険があるような状況で、相手に攻撃して命を奪ったり、敵をコントロールして拘束したり、自分の身を守ったりするための技術です。(対動物の場合は含まれません)
これに対して武道とは、武術から発展した現代の運動文化だと言われています。
- 武術は技術
- 武道は運動文化
日本の武道を総括する日本武道協議会(武道団体のボスのような存在)が、武道の理念をこんな風に言っているからです。
- 「武道は、武士道の伝統に由来する我が国で体系化された武技の修錬による心技一如の運動文化で・・・ある」
運動文化というのはつまり、人々が楽しむスポーツやレクリエーションや娯楽的なものと思っていいと思います。技術としての武術はどちらかというと仕事っぽいもので、文化・娯楽である武道は遊びチックなものと言ったらいいでしょうか。
ちなみに、武道には日本武道協議会が公式に定める9種類と、それ以外の新興武道があります。
- 日本武道協議会が定める武道9種
- 柔道・剣道・弓道・相撲・空手道・合気道・少林寺拳法・なぎなた・銃剣道
- それ以外の新興武道
- 居合道・七帝柔道・新体道・空道・日本拳法・相生道・短剣道・杖道・抜刀道
こんな風に、武道はこのようなものを修練する日本の運動文化のことになります。武術にはもっとたくさんの種類があります。
武道と武術の違いとは!
武術と武道の最大の違いは、ずばりその目的にあります。
まずは、武術・武道それぞれの目的について見てみましょう。
武術の目的
武術の目的は、相手を制圧・殺傷したり、自分の身をまもることです。
たとえば、日本の伝統武術である古武術には、武器術(ぶきじゅつ)・捕手術(とりてじゅつ)があって、武器を使って相手と攻防したり、相手を捕らえたりすることに使われて訓練されます。
武術は実際の戦いで生き残って、勝つための技術なのです。
武道の目的
これに対して、武道の目的は教育です。どんな教育なのかということは、後で説明します。
武道は武術を元に発展したものだと言いましたが…
明治維新で武士もいなくなり、人を殺す技術が必要がなくなって武術は廃れかけていたのですが、明治大正のころには西洋の「体育」という考え方が入ってきたこともあって、心身を鍛えることや教育として武術が使われる世の中になっていったのだそうです。
武術は専門学校で教えられるようになって、大正時代に名前も武道に変わりました。
講道館柔道の創始者・嘉納治五郎(かのうじごろう)も教育者で、彼の武士道と武術を合わせた教育的思想が後の武道家に強い影響を与えて、大衆向けの運動文化となったものが現代武道です。
日本武道協議会の「武道の理念」には、武道の5つの目的が示されています。
- 1)武術の技を磨く
- 2)人格を磨く
- 3)道徳心を高める(心を磨く)
- 4)礼節を尊重する態度を養う
- 5)国家・社会の平和と繁栄に寄与する人間を形成する
武術の技を磨くのも一つの目的ですが、それに人格や道徳、礼節などの精神的な要素も加わり、これら心技体を一体として鍛えて「人間形成」をすることが最終目的になっています。
嘉納氏は「すべての武道は社会教育である」と言っていたそう。武道が目指す人間形成とはつまり、教育のことなんですね。
武道は社会や国にとって理想的な人間を育てることを目的にしているのです。
このように、武術の目的はシンプルに実戦的な殺傷・制圧・護身で、武道の目的は武術を通した社会教育であるという違いがあるということを覚えておきましょう!
武術の種類4つと特徴
目的別に分けると、武術の種類は4つあります。
- 実戦を目的とする武術
- エンタメを目的とする武術
- 健康を目的とする武術
- 心身と霊性の向上を目的とする武術
それぞれの種類と特徴について見ていきましょう!
実戦を目的とする種類の武術と特徴
実戦を目的とする武術には、護身術、拘束術、殺傷術があります。
護身武術の種類と特徴
護身術は実戦で自分の身を守ることを想定した武術で、一般人(女性)向け、警備会社向けなどの種類があります。
- 刑務官向け:矯正護身術
- 受刑者から暴力を受けた際に身を守るための術であることが特徴。
- 一般向け:功朗法(総合実戦護身術)
- 力を使わずに簡単に凶器から身を守ることが特徴。
- 軍隊向け:ディフェンドゥー(英国)
- 現代軍用格闘術・警察特殊部隊の格闘術の源流
- 柔術の当身や捕手術の技法を取り入れているのが特徴。
功朗法のように、軍隊・ボディガード・一般人など幅広い分野で教えられているものもあれば、CMでおなじみの警備会社ALSOKの綜警(そうけい)護身術のように、情報が一般に公開されていない種類の護身術もあります。
拘束武術の種類と特徴
敵や犯人をつかまえるための拘束(こうそく)武術には捕手術(とりてじゅつ)や逮捕術(たいほじゅつ)があります。
捕手術(古武術)
- 捕手術(古武術・柔術)
- 相手をいけどりにするための拘束術
- 例:竹内流の羽手(はで)など
捕手術(とりてじゅつ)は、日本の伝統的な武術である柔術の一部で、相手を生きたままつかまえて拘束する技術です。

上は捕手術(とりてじゅつ)の写真ですが、縄で相手をしばっている様子が時代劇みたいですね。むかし逮捕することを「お縄をちょうだいする」と言ったのはまさにこのことなのでしょう。
このように捕手術(とりてじゅつ)は、相手を殺さずに取り押さえることが特徴です。
日本現存最古の柔術と言われる竹内(たけのうち)流には羽手(はで)と呼ばれる捕手術があります。

相手を固めて眉間に当身(あてみ)を行う。
捕手術(とりてじゅつ)は、古くは戦国時代に始まった古武術ですが、現在は他の種類の技法と合わせて「柔術」のくくりにされています。
逮捕術(現代)
伝統的な捕手術に対して、現代の拘束武術に逮捕術があります。
- 逮捕術
- 打撃や締め・関節技などを含む拘束術
- 警視流・自衛隊逮捕術など
警察や自衛隊が使う拘束武術で、関節技などのさまざまな技が使われます。
警棒や素手も使う逮捕術は、総合格闘技のように様々な技の要素を持ちつつ、犯人の人権蹂躙(じゅうりん)にならないように最低限の打撃を使うことが特徴です。
殺傷武術の種類と特徴
相手にダメージを与えたり命を奪う殺傷武術には、古武術の武器術と軍隊の近接(きんせつ)格闘術があります。
古武術の武器術
伝統的な古武術の武器術は、本来殺傷を目的としていますが、急所や命を奪う可能性のある技は危険なので教えたり公開されないのが特徴です。
- 古武術の殺傷術
- 武器術
- 弓術・薙刀(なぎなた)術・槍(そう)術・剣術・棒術・杖(じょう)術・鎖鎌(くさりがま)術・分銅鎖(ふんどうくさり)・手裏剣(しゅりけん)・含針(ふくみばり)術・十手(じって)術・鉄扇(てっせん)術・鉄鞭(てつべん)術・居合・抜刀術・もじり術・砲(ほう)術・奇襲術など
- 武器術
弓や刀など見慣れたものから始めて聞くような種類のものまで、たくさんの武器がありますね。

近代的な武器を使った砲(ほう)術も古武術の武器術で殺傷を目的としています。
近接格闘術
軍隊や警察で使用される種類の武術が近接(きんせつ)格闘術です。英語ではCQC (クローズ・クォーター・コンバット、Close-Quarter Combat)と呼ばれ、敵を殺傷することを目的としています。
- 近接格闘術(軍隊・警察武術)
- 単純で効果的な技で構成される
- 徒手(素手)・ナイフ・銃剣なども使用
- 例:クラヴ・マガ(イスラエル)など
近接格闘術は、武術未経験者が短期間で取得できること、民間人にも公開されている場合があるものの、殺傷技術は習うことができないのが特徴です。

(英語版Wikipediaより)
イスラエル軍のクラヴ・マガやロシア軍のシステマは最近人気でたくさんの民間人に学ばれています。
エンタメを目的とする武術
武術の2つめの種類はエンタメ(スポーツ)を目的とする武術で、その特徴は競技ルールがあることです。
これらの武術には参加者を殺傷せずに勝敗を決められるようにルールが定められています。
- エンタメやスポーツを目的とする武術
- 格闘技(ボクシング・レスリングなど)
- 総合格闘技(MMA)
- 武道(剣道、柔道、相撲など)
例えば、後頭部への攻撃などを禁止するルールがある総合格闘技(MMA)、ポイント制を採用している剣道(武道)、土俵内での戦いに限定する相撲など・・・。
武道のように、もともと殺傷術であった武術がスポーツ化したものや、相撲のように昔から鑑賞用スポーツ(格闘技)であったものもあると思います。
このように、エンタメを目的とする種類の武術は、ルールを設定して安全の確保をしていることが特徴です。
健康を目的とする武術
武術の3つめの種類は健康を目的とする武術で、代表的なものに中国武術の太極拳などがあります。
太極拳の特徴は、正しい姿勢や動きを身につけるために、ゆっくりと動き、身体の内面や呼吸を重視した全身運動であるところです。呼吸に合わせてゆっくりと動くことで脚の筋力やバランス能力・持久力などを向上させます。
日本の武術では、明治に創始された肥田式強健術が強く健康な心身を作る方法として現代に伝えられています。瞬速で強力な心身鍛錬法ですが、初心者は西洋の生理解剖学に基づいて作られた型を、ゆっくりとした動きから呼吸や姿勢・動作を学んでいくのが特徴です。
このように、健康を目的とする種類の武術は、呼吸や姿勢に気を配り、ゆっくりした動きから学んでいくことが特徴です。
心身と霊性の向上を目的とする武術
武術の4つめの種類は心身と霊性の向上を目的とする武術で、その特徴は宗教的思想をベースにしていることです。
- 心身と霊性の向上を目的とする武術
- 南少林拳(中国)
- 武道、合氣道(日本)
- システマ(ロシア)
- テッキョン(韓国)
- ズールーハーネ(イラン)
例えば、禅の影響を受けた中国武術の南少林拳(南拳)は、悟りを最終目的にしていて、カンフーは悟るための肉体を作る準備であると認識されています。(南拳グランドマスターのWon Kiw-kit氏による)
日本では、精神性を大切にする武道が、武士道の哲学の影響を受けていて、「武士道」の著者・山岡鉄舟(てっしゅう)は、「武士道は神道・仏教・儒教の神儒仏三道の融和」であると言っています。
「宇宙自然との和合」を目指す合氣道は神道・大本教をベースにしている武術です。
また、ロシアのシステマは、軍隊でも使用される実用的な武術でありながら、ロシア正教への信仰を根底として「破壊の否定」を根本原理に据え、心身だけでなく、魂(スピリチュアル)的な側面を高めることも目的とした哲学を持っています。
このように、心身と霊性の向上を目的とする種類の武術には、宗教的な思想が背景にあることが特徴です。
武術に向いている人とは?
それでは最後に、これまでご紹介してきた4つの武術の特徴をふまえて、それぞれの種類の武術がどんな人に向いているのか、私の意見を参考にお伝えしたいと思います!
- 護身術・伝統武術・近接格闘術:身近に危険がある人、海外に住んでいる人向け
殺傷や護身を目的とした武術は、実際に使うことを想定して学ぶことで上達が早いので、生活圏の治安が悪かったり、海外に住んでいる方が向いていると思います。
- 格闘技・武道:ルールの中で競うのが好きな人向け
格闘技や武道は、きちんとルールを把握して守った上で競技を楽しめる方に向いているでしょう。
- 太極拳:虚弱者・高齢者・運動音痴な方向け
太極拳など健康目的のゆっくりした動きの武術は、身体の弱い人や、運動神経に自信がない人にぴったり。
- 合氣道・南少林拳・システマ等:生涯学び続けられる人向け
宗教をベースにした合氣道などの武術は、試合がなかく勝ち負けがなかったりするので、自分を向上させるという目的や哲学を理解して飽きずに生涯学んでいく気持ちが持てる人に向いていると思います。
以上、武術の種類別にどんな人が向いているのかご紹介しました。
まとめ
いかがだったでしょうか。この記事では武術と武道の違い、そして武術の種類と特徴について解説しました。
- 武術と武術の違いは目的
- 武術の目的は殺傷・制圧・護身
- 武道の目的は社会教育
- 武術の種類は4つ
- 実戦目的の武術(特徴:危険な技は非公開)
- エンタメ目的の武術(特徴:ルールがある)
- 健康目的の武術(特徴:ゆっくりした動き)
- 心身と霊性の向上目的(特徴:宗教的背景)
ご自身に合う武術は見つかりましたか?
私は細かいルールを覚えるのが苦手なので格闘技は向いていないかもなあと感じます。海外に住んでいるので、護身術は習ってみてもいいかな?とも思っています。
武術の種類について、武器や戦い方などの面からもっと知りたい方は、ぜひこちらの記事も読んでみてくださいね。
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