合気道といえば、ほとんど力を使わないのに人が投げられて見る人が驚くような派手な演武。あんな超人的な技は、本当はやらせなのではないかと思う一般の方もいらっしゃると思います。格闘技をしている人の「合気道は実戦で使えない」と言う意見も多く目にします。
柔道などのオリンピック競技化されている武道と違って、精神性が強調され少しミステリアスな印象もある合気道。ここでは、合気道についてのネット上での議論をもとに、
- 演武をやらせと言っても良いのかどうか
- 実戦で使えないと言われる3つの理由
- 実戦で使える合気道を学ぶ方法
についてお伝えしたいと思います。
合気道を修練されている方々の貴重なアドバイスも含めていますので、ぜひ最後までお読みくださいね。
それでは、まず合気道の演武について見ていきましょう。
合気道の演武はやらせと言えるか
合気道の演武は、演武の目的や合気道の特性を理解した上でやらせと言えるかどうかを議論する必要があるとおもいます。
演武の目的
演武は、字が示すように「武を演ずる」こと、つまり演出です。強さを争う「試合」とは異なり、あらかじめ動きが決まっています。
そのため、一般の方が試合の違いを知らずに演武を見ると、「戦っていない=やらせ」と見えてしまう可能性があります。
合気道経験者によると、演武の目的は、「型の形を披露するもの」で、「演武で見るべきところは、投げられる人のリアクション(受け身など)はなく、投げる人の足さばきや身のこなし」であるそうです。(Yahoo知恵袋)
演武は本来、学ぶ人の技術向上のためにあるデモンストレーションで、どれだけ派手に相手を飛ばせたかを誇るために行われるのではないことに注意しましょう。
派手に飛ぶ理由
しかし、技をかける人(取り)を見て学ぶのが目的であるなら、なぜ技をかけられる人(受け)はあれほど派手に飛ぶ必要があるのでしょうか。ここまで派手な演武は他の武道には見られません。
合気道の演武で人が派手に飛ぶ理由は、護身のためと、やらせとの両方にあるようです。
護身のため
柔道の技は、元になる柔術の技を、相手かけても怪我をしないような形に改善されたものなので、技の受け手は抵抗することができます。

しかし、合気道では関節技で投げる柔術の手法をそのまま使っていて、技に抵抗すると怪我をするので、技から身を護るために受け身を取ります。
こうした理由から演武では、「受け手は技がきまる前に受け身を取ることで取り(技をかける人)に「協力」をする」ことになるのですね。(Yahoo知恵袋)
やらせも存在する
とはいえ、やらせが全くないということでもないようです。
「合気道が始まって間もない頃、内弟子でどうやったら植芝盛平の受け身が派手に見えるか、内弟子同士で考えた」という話が合気道の指導者自身から伝えられているそうで、「弟子たちが、自分で派手に受け身を取っている」ことは事実のようです。(黒岩洋志雄先生からお聞きした話)
創始者が望んだかは別として、合気道の演武では、受け手が「意図的に派手に飛ぶ」やらせは存在し、それが伝統として受け継がれている可能性はあると言えるでしょう。
やらせと思われてしまう理由
やらせが多少なりとも存在するとはいえ、合気道の使う技の特性の事情があるにもかかわらず、多くの人にやらせと思われてしまうのにはいくつか理由があるようです。
触れないで投げているという誤解
まず、合気道が非物理的な力を使っているという誤解があります。
「触れないで人を投げるのがやらせに思える」という意見があり、それに対して合気道修練者は、
- 人を投げるのは、触れないと無理(触れていないように見えているだけ)
- 倒すことは、触れなくても可能(意識の誘導によって相手にバランス崩させる)
と答えています。(yahoo!知恵袋)

先にも触れたとおり、合気道では、技がかかる前に受け身をとって怪我の危険から逃れる必要があります。
相手の技術が高いほど、なるべく早く受け身を取ろうと相手の動きを先読みして動くので、触れてもいないように見えるということが起こるのでしょう。(逆に、こうしたパターンを稽古で刷り込まれていない素人にはこしたことは起こりません。)
また、意識を誘導して触れずに相手を倒すのには、「手をかざして相手に避けさせることによって相手のバランスを崩させ」るといった方法が使われます。
ですので、合気道では「触れないで投げることはないが、触れないで相手を転倒させることはできる」というのが正しいと言えるでしょう。
試合をしないため
合気道の演武がやらせと言われてその技術の有効性を疑われる理由の一つが、合気道が試合を行わないことにあります。
合気道では、自身の「争う心」に勝つことを目的としているので、相手に勝つことが目的である試合を行わないという理念を持っています。
(また、勝ち負けにこだわることで、間合いや中心などの「正しい理合い」を身につけることができないため、急所を狙う当身技を禁じた安全な試合をすることで技が変質してしまうのを防ぐためとも言われています。)
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これについて、試合をする人たちからは、弱いから試合をしないのであって、強そうな演武もやらせなのだと思われているようです。
総合格闘技で活躍していない
「UFCで合気道をバックボーンに活躍している人はいない」のでやらせである、と言う人もいます。
しかし、総合格闘技(MMA)では、合気道の攻撃技である「指関節の極めや指での頸動脈の締めなど」が禁止されているため、MMAのルールで戦うUFCに合気道をバックボーンとして出場してもフェアな闘いにはならないことを合気道修練者は説明しています。
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こうした理由から、他の武道や格闘技との試合を見ることができないので、「合気道はやらせ」という憶測や疑問が生まれ、解消されることなく議論が続いてしまうのでしょう。
合気道では、「受け身ができない相手に技をかけると生命に及ぶレベルの危険が伴うため、強さを見せて証明することができない」というジレンマがあるようです。
形稽古で稽古が馴れ合いになりやすい
現代の合気道では、乱取りやスパーリングではなく、型稽古が採用されています。
「約束稽古」とも言われる事前に動きが決まった稽古です。合気道の修練者は、形稽古について「合気道では相手が手を抜くと技が成立しないため、やらせとは言えない」と言っています。
しかし、合気道の稽古では争うということをしないため「身内同士のなれ合い稽古」の中で、「協力前提の技に慣れすぎていて」技が効いていると「洗脳」されている、と格闘技をする人からは批判されています。
予想ができる範囲のみでの稽古をするスタイルが、外部の人がやらせと思ってしまう理由の一つだと思います。
関係者への不信感
合気道をやらせであると言う人の中には、合気道関係者の言動から不信感を抱いている人もいます。
詳細については各人が調べた上で判断する必要があると思いますが、合気道の開祖、弟子の言動に問題があると感じ、その不信感から合気道自体の有効性も疑われている(やらせと思われている)ケースもあるようです。
実戦で使えないと言われる4つの理由
一般の人が「合気道の演武はやらせじゃないか」と懐疑する反面、格闘技や武道を学んでいる人からは「合気道は実戦で使えない」と批判が目立ちます。なぜそう言われるのか、4つの理由を見ていきましょう。
目的意識の違い
まず、合気道そのものの目的が実戦で勝つことでないことに注目する必要があります。
合気道の目的
合気道の目的は、不戦・調和・和合。戦わずに相手を諦めさせ試合放棄させることを目標としているところが特徴。これに対して格闘技は、物理的なダメージを相手に与えて戦闘能力を奪うことによって勝つための技術です。
そのため、合気道では勝ち負けを意識したり相手と争った時点で負け(失格)ということになるので、「実戦で勝つ」ことに要求されるレベルが格闘技に比べて非常に高い。
相手と争って勝つことが禁じられている合気道の理念に沿って「実戦」するとしたら、相手に試合放棄させるほどの精神(徳)と技術の高さを身につけるか、相手のなすがままにするかどちらかを選ぶしかないのかもしれません。
実戦に使う目的意識の有無
合気道は機動隊や自衛隊の履修科目になっているので実戦で使えるはずだという意見があります。
彼らは実戦に使うという目的と意識を持った上で合気道の技を訓練・応用するので実戦で使えるのではないかと思います。
合気道の本来の目的である「不戦・調和・和合」に沿って稽古しているなら、一般に言う「実戦」を目指していないので、実戦に使えなくても当然と言えるでしょう。
合気道の特性
実戦で使えないと言われる理由の2つ目は、合気道の特性によるものです。
即効性が低く難易度が高い
合気道の特性として、他の武道と比べて即効性が低いことがあります。
先にも述べたとおり、格闘技と違って戦わずに相手と調和和合することを目的としています。そのため格闘技に比べると、難易度が高いので実践レベルに達するのに時間がかかる(即効性が低い)のです。
合気道は技を実用するための難易度が非常に高く、人によって到達点が異なるようです。一般的なレベルの修練者の技量では、乱取り・スパーリング経験者で戦いの駆け引きを知っている人には技がかかりにくく、素人にはよく技がかかるとも言われています。
格闘技の実践レベル(相手に怪我をさせて制する能力)に達するのと、合気道の実戦レベル(怪我を負わせずに相手と和合する能力)を得るのとでは、格闘技の方が格段に早く到達できるでしょう。
安全性が高い
実戦レベルに達する即効性が高い格闘技に比べて、合気道では安全性が高いことが特徴です。
安全性が高いということはすなわち、相手への殺傷能力が低いということなので、レベルの高い人は戦わずして敵と和合できるほど高度であるのに対して、そこまで到達していない大部分の修練者は攻撃を受けてかつ和合もできない(=争いに負ける)ので、とても弱いとみなされるのではないでしょうか。
戦後変わった稽古法
合気道が実戦で使えないと言われる理由の3つ目が、合気道の稽古法の歴史的変化にあります。
危険な技を稽古しなくなった
合気道の元である柔術は戦国時代の合戦での組討や武士の護身術などを源流として実戦的に使われてきたものです。合気道自体も実践目的で開発されて軍や警察などの指導に使われてきました。
急所への当身攻撃が主体であった合気道ですが、戦後過激な稽古が嫌われて当身と投げの割合が3:7になったと言われています。
また、他の武道と同様、実践的な技は「禁じ手」と呼ばれ、危険なので教えられていないというのも事実でしょう。私が学んでいる中国武術の体系でも、関節技は体系の中に存在するけれど危険すぎるという理由で教えられていません。
回復して元に戻る程度のダメージを与える技は教えられても、人の人生にかかわる障害を負わせる可能性のある技を教えることに何のメリットもないことは明らかです。ましてや、相手の生命を奪うようなことになれば、武術を教える組織としての存続にも関わります。
ということで、「実戦」で使える技の多くが封じられたのが戦後の合気道であるようです。
現代の稽古法の目的
現代の合気道の型を中心とした稽古の目的は、「実戦」には直結していません。
合気道の修練者は、型稽古や技の目的に以下のような要素を挙げています。
- 型稽古の目的
- 基礎をつくるための動きを身につけさせる
- 技のやり方を覚えさせる
- 合気道の技の目的
- 体の各部分を有効に動かすために解く問題集のようなもの
- 実戦で臨機応変に動く方法を学ばせる
使わない技をなぜ稽古するのかについては、それぞれの技が体の各部分の使い方を教えてくれ、各部分を自由に動かせるようになることでクセや偏りをなくし、実戦で臨機応変に対応できるようにするためと言えます。

現代の合気道の稽古によって、基礎的な動きと技のやり方を身につけ、実戦で障害になるようなクセのない自由に動く身体を作ることはできそうです。
しかし、ある修練者からは、合気道は「型が身につくほど実戦に弱くなるので、基本を習得した後に型にはまらず実戦のために自らアレンジできる人にしか使えない」という戒めの言葉もあげられています。
型稽古の目的が実戦に直結していると勘違いしていると実戦で使えないので、現代の型稽古は実戦での幅を広げるための基礎にとどまるという認識をすることが大切と言えるでしょう。
形骸化した技
合気道の技は、刀(武器)への対処を前提としたものであると言われています。
刀を抜こうとした手を抑えるために手首を取る、片手に武器を持っている前提で技をかけることなどがあり、現代の完全徒手の格闘技に対応できない形が残っているようです。
悪く言えば形骸化していて、良く言えば技の保存状態が良好と言えるのですが、刀を差している人がおらず、格闘技に武器が使われない現代においては、「実戦で使えない」無駄な部分があると言えます。
実際に、「自衛隊で採用されている大部分は、日本拳法由来の突き・蹴り・投げが中心」で「小手返しのような合気道の技は限定的にしか採用されていない」という話があります。
実戦で使える合気道を学ぶには
それでは、実戦で使える合気道学ぶためにはどうしたら良いのでしょうか?経験者のアドバイスをまとめて見て見ましょう。
目的を明確にする
これまでお伝えしたように、現代の合気道は格闘技レベルの実戦を目的としていません。合気道に限らず、武道にはそれぞれ目的や理念があるので、まずは「実戦で使える」ということは具体的にどういうことなのか自分自身に定義させましょう。
- いつまでに誰を相手に何ができるようになりたいのかをはっきりさせる
1年以内にいじめっ子に喧嘩で勝って二度となめられないようにするのが目的か、3年以内に格闘技のセミプロに試合で勝つのが目的なのか、10年以内に自分の中の劣等感や闘争心を制して実社会で敵を作らず人に応援される徳を得ることが目的なのか。
合気道修練者は、「喧嘩や格闘技で強くなることが目的であれば、空手やボクシングの方が早く強くなれる」とハッキリ言っています。
自分自身で設定した目的に応じて、手段である武道や団体を選びましょう。合気道の中でも、合気道S.Aのように打撃や蹴り、試合のある流派もあるそうです。(シュート合気道/Shoot-Aikido)
実戦に活かすために稽古を工夫する
合気道を実戦に活かすためには意識的に稽古を工夫することが必要です。
格闘技の実戦に生かす方法
合気道を格闘技の実戦に生かすなら、
- 相手の格闘技の特性を知る能力
- 相手の攻撃を見切る能力
- 体・足さばきで攻撃を避け相手を崩す能力
- 技のかかる間合いを見出す能力
これらを身につけた上で、攻撃技である当身や投げ技を使い、さらに馴れ合いを防ぐために「きちんと技がかかった上で受けを取らせる意識的な稽古をする」ことを徹底する必要があります。
3.の身体裁きについて、修練者は「合気道の技を有効に使うポイントは入り身・転換の足さばきを使って相手を崩すこと。この足さばきでの崩しができればキックやパンチに対しても十分対処できる」と言っています。
普段の形稽古で身につけられない部分は、格闘技をやっている友人に協力してもらって1~4を実践的に稽古するのも良いでしょう。
護身術に生かす方法
護身術として実戦に生かすことについて、修練者は「実践に役立つレベルに至るには膨大な時間がかかるため」、「柔道などと並行して習うことが推奨される」と言っています。
また、「護身術の要点は、相手を倒すことではなく、危険から身を遠ざける振る舞いをすること」であるそうなので、危険な状況に陥らないようにすること、危険な状況から離脱することを最優先させることが大切です。
そこでは合気道の技を相手にかける必要がない場合が多いかもしれません。相手を投げることよりも争いが起こらないうちに察して回避できる勘働きや態度を身につけることのほうが有効でしょう。
合気道の演武と実戦
それでは、合気道の演武がやらせである、または合気道が実戦で使えないと言われることについてのまとめです。
- 合気道の派手な演武には、やらせの部分と必然的な理由の両方が存在する。
- やらせと思われやすい理由
- 非物理的な力を使っていると誤解されている
- 乱取りや試合をしない理由が正しく理解されていない
- 合気道関係者の言動への不信感がある
- やらせと思われやすい理由
- 実戦で使えない4つの理由
- 合気道は実戦での勝利を目的としていない
- 合気道は実用への難易度が高い
- 戦後危険な技の稽古が減り、型稽古が中心となっている
- 刀の使用を前提とした技が現代の実戦にそぐわない
- 実戦で使える合気道を学ぶには
- 明確に定義した目的に沿って学び方を選択する
- 技の前に見切り・足さばき・間合いなどの能力を身につける
- 当身・投げ技をきちんとかけて受けを取らせる稽古をする
- 護身の場合は柔道なども一緒に学び、危険を回避する振る舞いを身につける
合気道はやらせであるとか、実戦で使えないということについてのネット上での賛否両論を調べて、どちらのケースも理由があって存在するということがわかりました。
精神性・技術ともに高度で安全である代わりに短期間で実戦に応用できないため、一般の修練者が「弱い」とみなされるのは無理もないかもしれません。
他の武道や格闘技との違いを正しく理解した上で、ご自身の目的(=実戦とは何か)に沿うのであれば、合気道を学ぶ価値があると言えるでしょう。